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記憶焼失
北千住の公園に遊び 帰りしな裏路地 火事場を撮る 「火事場なぞ撮れば あとで火事に遭う」 君よ どこで その知恵をつけた 新聞配達夫が青春を ドアポストにねじ込み いくばくの金と 食と寮 あてがわれる 夜討ちと朝駆け 不払い購読者つかまえ まとめて金をせしめたる夜 翌日は休暇日 つがう 喜びと喜び 翌々日 うそいつわりであってほしき早朝 足ひきずる配達夫 どこぞ火事場か? 鼻孔に この世ならざる漆黒の臭気 見上げれば 安アパート二階 窓 洞穴と化し 夜 明けない闇の孔 その洞穴に住まわしは おとついの夜 集金せしめた 若き男の購読者 ただ 手癖のごとく かの部屋へ配るべき新聞にぎり 悄然と二階への階段 一段 一段 巡る 巡る 先夜の男とのやりとり 表情 声 指 去り際の おのれの愛想笑い 煤けて半開きの玄関扉 臭いに鼻を曲げながら 隙間からのぞく室内 朝ぼらけのなか 壁床天井が 闇夜より濃く 何も見えず 誰もいず 鼻を曲げる臭いたたずむ ── 新聞どうします? 届けられない新聞をたずさえ販売所に帰る 先回りのひとことが迎える 「火事であそこの人 死んだってよ」 老練なる専業の男 街区の情報に耳ざとい男 ── 一件が減った 荷が下りた 階段 一本減った 減るだけ 楽になる 気持ち なでおりる そんな摩滅した情操のその他に 心持ちはいかばかりだったか 記憶がまったく 抜け落ちている 焼け落ちている
記憶焼失 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1999.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 25
作成日時 2019-11-24
コメント日時 2019-12-21
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 6 | 5 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 3 | 2 |
エンタメ | 3 | 0 |
技巧 | 5 | 3 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 5 | 4 |
総合ポイント | 25 | 17 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 0.5 |
前衛性 | 0.3 | 0 |
可読性 | 0.5 | 0 |
エンタメ | 0.5 | 0 |
技巧 | 0.8 | 0 |
音韻 | 0.2 | 0 |
構成 | 0.8 | 0.5 |
総合 | 4.2 | 2.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
新聞配達を背景に、少し古い言い回しのこの詩がとても面白かったです。 2~10連目は新聞配達夫から見た情景や心情が書かれていると思うのですが、1連目と最終連については、タイトルに「記憶焼失」とあるので、そことの関連だとは思うのですが、読み取れませんでした。 新聞配達夫の何気ない日常、不払い購読者から集金をした矢先に、その家が火事になるという突然の展開、それらが事細かに描かれた後、 > ── 新聞どうします? と続くところが面白いです。
0つつみ さん ありがとうございます。 わかりにくい遠回しになってしまい恐縮です。 私が得た、きっかけ、経験、記憶そのものの 書き並べにすぎないわけなんですが その記憶に強く刻まれてもいいはずのことが なぜか切れ切れで、読み取れないのです。 その記憶に火を投じて焼き尽くし 灰だけしか残さなかったのは何故なのか。 焼却して消したかったものは何なのか。 そして付け火した者は誰だったのか……
0以前新聞配達をやっていたころを思い出しました。集金とはやっていなかったのですが、自分の体験が蘇るようで、ワイルドな感じなど、何か手触りがあるような感じがあると思いました。
0不思議な迫力を感じました。 自らの体験、記憶が元になっているのですね。 そういったものを元にするとしばしば強烈な印象を与えるので、だからかもしれません。 記憶焼失、タイトルがすばらしい。 もはやこの題しかこの詩にはそぐわない。
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