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潤夫密通
車窓に頭をもたげ男は 袖に赤い値札をぶら下げ ネクタイを緩め 少女は 下ろしたばかりの新券の四隅をピシリと整えて畳み それをそのまま手の中に隠し さっきから視線はこの男から離れない コートとマフラーに埋もれ 手の中で硬く握り込まれる一万円札 男の袖からぶら下がったケタを何度も確かめる やっぱり 「この男しかいない」 赤い値札の隙間からは指輪 その後押しで少女が立ち上がった 手の中には握り込まれ縮こまってはしまったが きちんと畳まれた一万円札 男に歩み寄り 徐に差し出す 何発することもなく男の顔を見る勇気はもうすでになく 少女は俯き、ただ今は 男が差し出された一万円札を受けとることを ひたすら祈るような思いで待つだけ 少女が今出せる精一杯の金額がこれで これで買える この男を選んだのだ 俯き男の手元を一点に見つめる 二人押し黙ったまま 何ひとつ言葉が発っせられる事はないまま やがて男の左手が伸び 一万円札に手が触れた それでも少女は強張ったまま 顔を真っ赤にし俯く 一万円札が男の手の中に入り そのまま二人一緒に電車を降りた 道すがら男が携帯を出し聞こえないくらいの声で一言二言話しすぐ切った さっきの一万円札はもうどこにもない 首筋にあたる水滴が零れ 服の中に滑り落ちると 途端に武者ぶるいが全身を駆け巡った 男の顔はやっぱり見ることもができない 男も何か言葉を発する様子もない 蒸気が行き場を求め 一枚また一枚と体から剥がれてゆく 目を閉じ最後に見た男の虚ろな横顔と 左手を回想しながら。
潤夫密通 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 803.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-03-04
コメント日時 2018-03-05
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
李沙英さん投稿ありがとうございます。 女子の初体験と男子の初体験は「神々しさの喪失」の一点で違いがあると思ってまして。もちろん神々しさを失うのは男子、、、いや女子だと思うんです。で、本作での少女にはもちろん神々しさの喪失など頭の中には無いと思うんですよ。いや、、、もしやなんですが、神々しさの喪失を覚悟しての行動なんですかね?なんか、そういう風にも読めますね。というのも謎の「赤い札」。これは聖骸布に付着していたジーザスの血痕の隠喩ですよね。おそらく間違いない。ですから、この男は何も語らいジーザスの譬喩であり、少女は逆指のマリアだ。と思いました。 少しテクニカルな面で率直に感じたことを言いますと、本作は構造が弱いのではないかと思います。強度が無いとも言えます。状況が浮かぶ文体ではある、しかし本作が本質として持っている深みが、なぞなぞとしてしか伝わってこない。それは奥行きを言葉で表現しようとされているからではないでしょうか。全体の展開構造にも浅深が必要なんじゃないかなあと思うのです。すみません、上から目線で書き抜きました。
0三浦⌘∂admin∂⌘果実 様 とても深くお読みくださりありがとうございます しかし私の方が三浦様の読みの深さまにまでは到達しておりませんでした。 女の子が受け身という立場だけでなく 自らの大事を買ってのけられる程の破天荒さと奔放さと度量を買って書きました 赤札は買い手のついた品 または激安特価商品ともとります 家電量販店、家具店などで見ますぬ。 色街においては一度でも手が付くと値は下がり 歳追うごとに値は下がり 法外な値段にまで買い叩かれると聞きます 少女の固く握り込まれた手は処女膜に見立て かつて操を奪われた側であり 同時に操を奪った側であり 成人を前に子を儲けた自身に処女喪失の神々しさを何と説けるのか 浅かった 詩にしたいのか情景を浮かばせたかったのか それ以前に詩の「本質の何か」すらわからないでいるのか。
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