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答え
男はひどく考えこんでいた。なぜ自分がそんなに考えているのかを考えこんでいた。 答えを求めていたわけではなかった。いや、そもそも答えに辿り着けないからこそ考え込んでいるのだった。 答えのないことが男にとっての答えだった。男は考えている途中にそのことに気づいてしまった。だが、男は考えることをやめなかった。なぜだろう。答えが一つ出た。考えている途中になんらかの答えが出てくるのではなかろうかという期待を込めていたのだ。さて、何らかの答えが出ることを期待して考えているという考え込んでいることに対する答えは出たようだ。 だが、ここからがまだ始まりだ。 男は満足する答えが欲しかった。何に満足できる答えか。それはこの作品に対する答えだった。 答えと名付けた詩に対する満足いく答えが出るのを男は期待していた。でるわけがないと思いながらも、いつしか出るかもしれないと期待していた。 男が答えを出すために考えるなかで、ひとつの大きな障害があった。それは時間だ。考える時間がたくさんあればあるほどいいと男は考えていた。男は考える時間が嫌いではなかった。だが、その時間が問題だ。もう深夜であった。眠りにつかねばならない時間であった。もう深夜2時だ。明日は決まった時間に起きねばならない。仕事があるからだ。まだだ。まだ大丈夫だ。もう少し起きていてもどうってことはない。男はかなり朝余裕を持っていた。起きる時間も早かったし、普段から睡眠も十分に取れていた。今日、少し夜更かししたからといって、明日の業務にそれほど差支えがあるとは思えない。何より男が恐れたのは、このまま何の答えもでないまま眠りにつくことだった。いや、それでもいいのではないかという気がしてきた。答えのないのが答えにしてしまえばいいのではないか。それか、答えを明日以降に引き延ばすもいいのではないか。いずれにしろ、もう考えるのも疲れた。そろそろ止めてしまってもいいのではないだろうか。 ああ、でもこの際だ。あと30分、時間を決めて考えてみようか。さすがにそれ以上は眠いし馬鹿らしい。あ、今答えがでた。眠いし馬鹿らしいからやめる。これもひとつの答えだ。でもそんな答えで満足するのは嫌だった。せっかくならもっと洒落た答えを出したいものだ。そうでないと眠るときも悶々するのではないか? なんだかわけがわからなくなってきた。このままでは気が狂うのではないか。ふと、考える男の銅像が頭に浮かんだ。彼はきっと考えて考えて考えるうちに石になってしまったのだろう。そして今でも石になった脳みそで何かを考え続けているのだろう。それも一つの答えだ。ああ、いまリアルに溜息がでた。もういいだろう。いい加減答えを出そうじゃないか。そして最初から見直す。推敲する。このもう一度見直すというのが案外楽しいのだ。自分が書いた作品を自画自賛するのだ。これが思ったよりも楽しい。だから人は作品を作るのかもしれない。自分で自分を褒めてあげるために。ああ、ついに答えが出た! 私が……僕が……どっちか忘れたがそんなことはどうでもいい。なんだったかな。無意味に時間を費やして考え込んでいるのは出来あがった作品を眺めるためだ。そうだ、画家が自分の書いた絵を眺めるように、詩人は自分の書いた詩を眺める。そして悦にひたる。頑張ったと自分を褒める。ようし、ようやく終わりそうだぞ。もうこの詩は終わりだ。誰が何といようと……誰も何も言うはずがないが。ああ、まだだ。まだまだ考えが浮かんでくる。人間の思考に終わりはないのだ。生きている間、何かを考えているのだ。それは当たりまえのことだ。だって脳は常に動いているのだから。パソコンに文字を打つということだけで脳は動いているのだから、そこから何らかの思考へ分岐していくのは当然のことだ。終わらせなければいけないのだ。考えることを考えて辞めることなど不可能なのだ。ふっと終わらせればいいのだ。この作品はここまでと決めることしかできないのだ。はて、この作品の題名は何だったかな。たしか「答え」だったな。答えは無限にある。考えることを続ける限り答えはある。考えることをやめないことが答えを出し続けるための答えである。これでいいだろう。さて、今から推敲に入る。この詩を見直して、少し手直しを加える。せいぜいてにをはが間違っているところを直すぐらいだ。もう少しで終わりだよ、私。いや僕? もう続けるのも飽きただろう。もう終わりだ、まだお休みはいわない。まず推敲するんだ。それがおわってはじめて、終われるんだ。よし、推敲に入ろう。 たった今、推敲が終わった。すこし文字が抜けていたりしていたところを直した。もっと長い作品かと思ったが、案外短いものだな。さて、ようやくひとつの答えが出た、明日も答えを出すために、今日はひとまず眠りにつく。おやすみなさい
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答え ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 466.5
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-12-16
コメント日時 2024-12-20
項目 | 全期間(2024/12/22現在) |
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叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
- 夜のやさしさ (はちみつ)
詩を書く上の永遠のテーマかもしれません。 なぜ詩を書くのか、その衝動とはなにか。 なぜ衝動のままに様々な有象無象を表現しようと頭を捻り生み出すのか。 それが分かれば真実に少しでも近づくのかもしれない。
0コメントありがとうございます。 なぜ自分は詩を書くのか? というところから始まって、 やっぱり答えはでません。そこに山があるから登るに近いかもしれません。
1「答え」に対する答え見たいな感じが極めて思弁的な印象を与えるのですが、或いは詩作に内実を開示してくれたようなそんな印象を受けるのです。
0表現する方法を必死に考えていた頃はまだ無邪気に詩に向き合っていたような気がします。 しかし時が経つにつれ、周りの影響や変化によって歪んできたのではないかと考えています。 それでも書くのはやはりそれが私にとっての表現であり、それしか方法がないからだと思います。 相野さんはいかがでしょうか。
0エイクピアさま コメントありがとうございます。 改めて自分でよんでくどい作品だと思いました。頭の中だけで答えを出そうとしていましたね。
0秋乃 夕陽さま コメントありがとうございます。 僕の場合、最近は表現うんぬんよりも内容が面白いかどうかを重視しようと思っています。 あとマンネリは避けたいので、人まねでもなんでも表現を変えてみたり、短くしたり長くしたり、ユーモアを入れていれてみたり、バラエティに富んだ内容にしたいですね。
1相野零次さん、そうなんですね。 いろいろ挑戦し、工夫してみるのは良いことですね。 これからもお互い頑張って書き続けましょうね。
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