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バランス
冷たいグラスの内側で動きを止めた世界に穏やかに横たわる白い肌からにじむ重さのない光を浴びながら若い警官は生まれて初めてこの星から少しずつジュースが零れていく音を聞いている 巧妙なレゴブロックが積み上げられた都心の衒いのない公園の枯れた芝生で彩りの褪せた落葉から半身を晒したそのからだは何も身につけていない様子で胸の上に組まれてほんのり赤味の差した細い腕には鳥肌ひとつ浮かんでいない 葬儀の支度を確かめるようにおろしたてのスニーカーで周囲を静かに歩いているうちに若い警官はできたての乳製品に似たボディークリームの容器を発見するとノズルから洩れたクリームは点々とそのからだに向かって緩やかに円弧を描いている 状況から見てこの人工的に凝縮された液体は何者かによって満遍なくそのからだに塗られたのちに容器のみが遺棄された可能性が高いと若い警官は思いを巡らせながらでもなんで自分が警官になったのかその理由が段々わからなくなってきている 犯人は非常に高い技術を持った者と見られるとスマホにメモをしているうちに落葉の色合いや質感との対比で艶やかに湿った光を放つそのからだはたおやかな白磁の陶器のようで彼は手袋をとってその肌に触れてみたいしできれば静かに抱きしめてみたいと感じるがそれは決して許されることではない 若い警官は徐々に傾きを変える未明の陽光に目を細める、実は彼にはそれが男なのか女なのかもわかっていない、生きているのか死んでいるのかもわからない、いったいこれまで何を学んできたというのか、彼は自分の経験不足を心から恥じている スニーカーが枯葉を踏む音が耳元に届く 心が止まってからというもの部屋のインターホンを聞いていないことに突然思い当たる、そして彼はこどもの頃に自分の容姿がひどく嫌いだったことを思い出すが、どうやってその醜さに折り合いをつけることができるようになったのかを思い出すことができない ビルの間に広がる空を見上げると湿度のない空気が鼻から喉の奥に抜けて彼はこれまで誰かの遠くを漂ってきただけだったことを寒気のように感じる でも自分にとってはそれが自分にできる仕事だったのだ、自分は自分なりに精一杯やってきたのだと若い警官は思う 彼はニット帽を脱ぐと長く伸びた髪をかきあげ深呼吸をしてその美しいからだの隣へゆっくりと自分を横たえる 頭の後ろで落葉が砕けて粉になる音を聞く いつまでも青くならない空の向こうで弱い星の光がひとつ消える 「もうこれ以上、ジュースを零さないように」 彼は消えた星に向かって約束するように呟く 心と世界の均衡を崩さないように小さな声で
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バランス ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 269.4
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-12-15
コメント日時 2 時間前
項目 | 全期間(2024/12/22現在) |
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叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ウォン・カーウァイ監督の香港映画『恋する惑星』を何故だか思い出してしまいましたよー共通点が若い警官とゆーだけで!ジュース!クリーム!何やら何やらー僕も自分の経験不足を心から恥じているのですよー
0三明十種さん、ありがとうございます。恋する惑星!そんなにかっこいいものではないですが、この寒くて乾いた季節にジュースやらクリームやらの水分が欲しかったのかもしれません。冬はとても気持ちが静かになる季節です。
0閾値というか 佐々木さんの作品は俺の詩に対する感覚、 良いなと思う感覚を超えてくるというか しかし今回の作品はそれが中々はっきりしなかったな 読んですぐにガチンとくる場合もあるけど 今回はなんかよくわからなかったな しかし嫌な感じもなかったな やはり人が作るものだからさ 他の人にとっては異物でもあるわけで 詩と言うジャンルはその点まだ異物感というものはあまり無いように思うけど 閾値は超えているけれどもしっくりはきていないみたいな感覚があったりするんだよね まぁ前置きはこんな感じなんだけど 今回の作品はさつまり > 若い警官 と言うワードが俺的には問題というか この作品はさ、このワードが無かったら多分結構コメントもついてそれなりに評価されたと思うんですよね いつもの佐々木さんの世界観の中で突然引き戻されるみたいな しかもちょっと嫌な感じで 最初の方でこの作品は嫌な感じでは無いと言ったんだけど、このワードに関してはまぁ嫌というか躓くというか 別に若い警官でなくても良いのではないのかなと思うんですよね もっと佐々木さん的にもあると言うか。 引き出しの中に。 「若い」も気になるんだよな 敢えて若くなくても良いだろうにとか思ってしまう いや、これ批判というかdisっている訳でもないんだけどまぁ現実には書いてる分には そうとしかとられない感じなんだけど つまり作者はイコール若い警官ではないし 語り手と若い警官はイコールでもないだろうなと思うんでつまり若い警官は 何のメタファーなのか? 若い警官から何を感じ取れば良いのだろうか みたいのが俺の中にあるんですよね 若い警官から何か何処に意識がいかない 死んだ比喩と言うか まぁちょっと意味合いは違うかもしれないけどジョジョの5部でレオーネ・アバッキオ のみる走馬燈の中の警官の名言と言うか 「真実を追い求める意志」 まぁこれは5部そのもののテーマでもあるんだけどこれの事かなとも思ったけど 逆に他にどんなイメージがあるのかと思いました若い警官のイメージってこう無いと言うかなんか交番と言うかそんなところに詰めている制服を着た本質的に何をやっているのかよくわからない人と言うか 恐らく交通事故の現場のアレとか 一旦停止のアレとか何だろうけど パトカーに乗っているイメージも無いと言うか警官ならまだあるけど若い警官?ムム? って感じなんですよね しかし敢えてかどうか知らないけど佐々木さんが書いているのでそこには何かあるとは思いますけどね 俺の中で佐々木さんは信頼に足る人物と言うか詩作品に対して信頼できる書き手なんで 若い警官と言う言葉に何かしらの意味があると思っています。 実際何十回も読んでいると良いと思い出したしね、実際何十回も読もうとおもう作品は良い作品なんで ちょっとよくわからない感想になりましたが 評価できる作品だと思いましたという事です
0ひさびさにコメントしますが、これは若い警官と犯人というキャラが強いので お話 として置かれているようにみえてしまうのと、そこは 佐々木さんの手腕 で(手癖で)流れるような視界を生み出せるのだけど、この 2つの先入観 でみてしまい、それがどう接点を持つのかという固定観念から、繋がらず、わたしは(あくまで わたしは、です)この詩のおもしろさを(良さを)見いだせないのですね。結局作品としては、なにが書かれているのか、という疑問より。この詩から読み手がどう感じ生み出せるのか、なんです(わたしはそういう読みをしています。)これ、行分けにして、内容を汲み取らせるのではなく、もっと凝縮し読み手に委ねる必要があったのかもしれないね。(とわたしは思いますが、佐々木さんとはだいぶ考え方が違うので、参考になるかはわかりませんが。
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