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埃まみれのフローリング
踏みしめる大地は剥き出しで、見上げた電柱は傾いている。ピサの斜塔ってこんな感じなんだろうか。それにしては随分と貧相で笑ってしまう。灰色一色のピサの斜塔。もし私が幼児だったら、つまんないからとピンクで塗り潰しただろう。 立ち止まって振り返るとどこまでも廃墟。きっとこれから少しずつ人が戻ってくるのだろう。……ほんとうに? ほんとうに、戻ってくる? わからない。そうであればいいと、思っている。ポストが錆びて、赤茶けていた。 コンクリートはひび割れている。床も、壁も、道も。石畳はばらばらに、ただの石ころになって、どこか遠くに転がっていく。風に吹かれて、砂にでもなるつもりなんだろう。海岸線さえ遠ざかったらしいから。海の青さえ遠くへ逃げた。数多の命を置き去りにして。 心をできる限り透明にして、心を透かして周りを見れば、できることはたくさんある。例えば、埃をかき出して、例えば、ごみをまとめてしまって、例えば、例えば、例えば。 例えば、玄関を潜る時、靴を脱いではいけなかったとして。その瞬間、心に色が入り込む。テンプレートな青色が。 窓が割れて吹き曝しの部屋の中はめちゃくちゃで、何から手をつけていいのかわからなかった。だってこの家は私の家じゃない。この家の中に詰まった無数の思い出を、私は半分もわかれない。 この家にはもう、誰も戻らない。
埃まみれのフローリング ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 780.4
お気に入り数: 3
投票数 : 5
ポイント数 : 0
作成日時 2024-03-18
コメント日時 2024-04-22
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
「わかれない」は日本語としておかしいため、目についた。(私自身もしょっちゅう間違いをしていて、他人のことは言えないのだが。)口語として、作者が意図的に使ったというのも考えられるが、そうだとしても私はこの詩の世界感には合わないと思った。 私は基本的に細かい間違い(と感じるもの)に関しては寛容で、指摘することはないのだが、文章の雄渾さに心を引かれたため、その欠点だけがとても惜しく思えた。一票を投じる。
0実際に見に行ったことがあるのですが、もう人の戻ることのない被災地の様子が浮かんできました。 いつ帰郷できるのか。復旧が長年に渡ることで、仮の住まいを他に移していた家族は、移動先に適応してしまう。今更戻るなんてことができない事情があったりする。 この詩では、石畳がバラバラになるという表現や、空の青さも遠くに行ってしまったことで、上の問題のやり切れない想いが巧く表現されていると感じた。 心を透明にして、他人の空き家に入ると、色が入り込む、という一連の流れも良い。難しいことは考えず、まずはゴミをまとめて出すところから、と意気込み家に入ると、その家の想い出や光が入り込んできて、何も手につかなくなる。 何を棄てて、何を棄ててはいけない? 自分にはゴミに映るものでも、この家にとっては大事なアイデンティティなのではないか。 そんな葛藤が、伝わってきました。
0能登で震災人たちはたいへんな辛苦をされていることでしょう。実際に崩れ落ちた我が家を目の当たりにすれば、例えば、例えば、例えば、このように動揺した言葉を発するかも知れません。~玄関を潜るとき~私は半分もわかれない。ちょっとした支離滅裂感もあり切迫感がありますね。これが創作だとすれば、表現の卓越した書き手の方でしょう。
0私にはこういう経験がありませんのでコメントする資格がありません。ただ、「この家は私の家じゃない」という絶望は察するにあまりあります。お辛いだろうなとお察しします。
0おはようございます。 「戦争」をテーマにしたもの、「災害」「禍」をテーマに書かれたものを目にする事がよくあり、そういった作品は過去にも多く存在していますので、最近多いですよね、というのもおかしな話なのですが、「抑えられていて」切実さが感じられて、その誠実さに好感を持てました。 好みも別れるのだとは思うのですが、こういった「切実」で「シリアス」なものは、「読みたい」か「読みたくない」かが如実になってしまいますね。 「わかりやすさ」だけならば「不粋」が際立つように感じてしまいます。 踏み込みの深さを感じました。 ぐだぐだ書いてしまいましたが、淡々と熱が明滅しているようです。 ありがとうございました。
0ひび割れてしまったのはこの街並みなのだろうか、それとも人々の心なのだろうか、絶望的な結末にこの詩の真髄が詰まっているような気がする。
0自然災害を軸に廃墟と化していく家、しかし何があったのだろうか。「わかれない」私。この家に詰まった無数の思い出を誰が回復してくれるのか。ミステリアスな雰囲気の中、 「この家にはもう、誰も戻らない。」 この最後の行のフレーズに惹かれました。
0さびしい廃墟の風景を、風だけが吹きすぎて行く。懐かしき我が家、新しい生活へと。 「夏草や 兵どもが 夢の跡」。住む場所が、はらんだ思い出は、人の命の記録。 決意も新たに。
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