初めに神は「ボノボあれ」と言われた
するとボノボがあった
ボノボノボノボノボノボノボ
うれしいかなしいいやらしい
こをなすこをうむこをおかす
むかし、ソドムという街がありました
神様に差別されて滅びたその街には
ボノボがいました
むかし、ゴモラという街がありました
神様の偏見で焼け落ちたその街には
ボノボがいました
ボノボ
ボノボ
猿の仲間
人間に近くて
人間と違う
こっちを見ている
ボノボの目
背後を見ている
ボノボの目
ボノボは
神様の火で燃えて死んで
ボノボの黒焦げだけが残りました、のはずでしたが
ボノボは死ぬ時、右手を残すのです
だから、ボノボの右手だけが残りました
性愛と
親愛に
区別をつける必要がありましょうか?
そもそも家族とは
初めの性愛であり
息子たちは母の小さな主人であって
父の脆き娼婦なのです
ああ
ああ
イラマチオをするたびに、息が漏れてしまいますよ
息子たちは
娘たちを蹂躙して
父の吐いたものを吐き直すのです
母と、娘と、姉と、妹との
傷痕と、歓喜に似た哀願を
息子たちの倫理が
組み伏せるのです
それは
小さな
小さな
窓のある部屋の中で
線状の
細い血管がある
小さな
部屋の中で
その、小さな部屋には
ボノボの右手が飾られています
薄汚れて
じゅく、と毛の濡れた
黒い、皺だらけの右手が
それはいつかの
息子たちの愁嘆のようで
そしていつかの
娘たちの哀願のようで
胸痛と、倦怠の後で
目の裏に、ボノボの毛が混じっているのに気付くのは
いつも、眠れなかった夜の後なのです
神様の罪深いことは
火と、雷と、星と、
ボノボを生んだことです
火と雷と星は
光と熱とを生んで
黒い黒い薄闇の中で、
神様が、ボノボとしていたことを
気づかせたのでした
神様の白濁した液を
ボノボの娘たちは等しく受けとって
左手と
右手を強く結び合うのです
ねばつく
白濁した精液が
神の左手と
ボノボの右手の間で
細く長い糸を引きます
それが
ひどくはずかしく思えたので
神様はボノボを
木々と虫と赤い土で隠しました
遠い遠い
熱の国の
黒いジャングルの奥で
熱病と
旧い記憶を抱えながら
ボノボたちは先祖の右手を抱えています
黒い右手を
抱えています
ボノボ
ボノ、ボ
ボノボの
ボ
猿の仲間で、人の似姿
じっと、ずっと睨んでいる
睨んでいるのではなく、見つめている
黒い目で
黒い黒い
黒い目で
黒い、その
黒い目に
神様の焼いた街の記録が余すことなく映っている
ので
預言者たちは古を知るためにボノボとキスをしなければいけない
髭面の預言者は
ボノボの娘に口付けると
ふたりのあいだに、細く長い唾液の糸が伸びて
胃液臭い息が
あ
あ
ああ
イラマチオをするときより
少しだけ腐ったような
生ぬるい水の味が
舌を満たすので
預言者は過去を覗いた後
必ずボノボを打ち殺さなければなりません
娘たちと
妻たちと
母と、老いた何かの老婆たちに
ボノボの匂いを
知られたくはないのです
打ち据えた、幾度も打擲したその顔が
軽蔑に歪むのを
預言者は何よりも恐れています
アダムの肋骨
そういうことにして
彼女たちの唾液が、怖くて怖くて仕方がないのです
ボノボの、腐ったような唾液の匂いと
娘たちの、酒めいた唾液の匂いと
あ
あ
あ
と、息が漏れるたびに
気化する諦観と
胃酸の染みた、土の色が
怖い
怖い
ボノボの瞳の奥にいる
娘たちの顔が
怖い
怖いのです
だから
打ち殺すのです
打ち殺さねばならないのです
そうして残った
ボノボの右手を
預言者は、持ち帰ります
その、小さな部屋に飾るのは
預言者たちの
征服の証だから
ボノ
ボノボ
ぺりゃぺちゃと足音を立てる
けむくじゃらの、猿の仲間
人間の相似
似ているから、気持ち悪いのです
似ているから、その顔が
その、真っ黒い口から垂れる唾液が
似ているから、こそ
打ち殺さなくてはいけない
頭を、叩き割るように
強く
猿の頭は、ひしゃげつぶれたままに、こちらを見ています
そこ黒い目に、指を押し込んで潰しても
右手だけは、残るのです
神の左手に
まとわりつくボノボの右手が
いつか神を転げさせます
地上の
イラマチオで吐いた水溜りが
いつか海になる頃に
いつか
いつか神は転倒して
預言者たちは、嘲笑します
それは、諦めたように
自分たちの頂いたものを、諦めたように嘲笑します
黒い
真っ黒い瞳で
ボノボノと、ボノボノボ、嗤っています
口の筋肉が、引き攣って
息子たちを、犯し飽きて
ああ
あ、あ
ボノボ
ボノボ
ボノボノボ
ボノボノボノボ
ボノボノボ
かみのひだりて
ぼのぼのみぎて
うれしいくるしいいじらしい
みじめでこわくてうそくさい
息子たちは
息子たちの倫理で転倒して
娘たちは
娘たちの倫理で転倒する
殺し合った記憶はいつも
熱病の夜に思い出す
くらい、くらいねつびょうのよるに
かみさまが、ぼのぼをころしたひのことが
そしてぼのぼをうんだひのことが
えんえんと、めぐりつづけるのです
にんげんの、のうみそは
つよくつないだ
かみのひだりて、ぼのぼのみぎて
熱病で
死んでいく猿たちの
目の裏の寄生虫を
ボノボは知っているよ
それが、神様の細い血管であることも
それを
父が息子へと
息子が、娘や母たちへと
長く永く繋いできたことも
イラマチオで溢れるのは
息だけでは、なかった、と、いう、ことを
知って、いるよ
火が遠く、旧い記憶を照らす
黒い
黒い
ジャングルの、奥にいる黒い目をしたボノボの娘は
ずっとずっと
知っています、よ
作品データ
コメント数 : 2
P V 数 : 978.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2023-09-10
コメント日時 2023-10-05
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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前衛性 | 0 | 0 |
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2024/11/23 19時01分39秒現在
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おはようございます。 ブラック、って書いて差別に当たるのか、非常に戦々恐々としつつ書きますけれど その、ブラック、の聖書─バイブルに対して真摯戦っていたのは、ええと、確か マルコムX氏がそうだと思いますけれど。 それとジャマイカなんかでも、その白人主義的なバイブルがあるとして 「私達に於いてのバイブルとは」というムーブメントがあって ボブ・マーリーはそういった下地がありますね。 それらはイデオロギーという意味で政治と関り深く マルコムXもボブ・マーリーも、その邪魔な存在として暗殺されてしまった。 まあ、マルコムXはイスラム原理主義に ボブ・マーリーはスタンスは変えなかった経緯もありつつ音楽の力を信じていた。 その、1970年ごろからのブラックに於ける聖書の奪還戦は その、現代にあって、「白人優位な姿をしていなかったイエス」 という点が明らかになったことで一応妥協点を見いだせたのかな と思います。 そうして、現代詩、という意味でタブーに斬りこんでゆく一面があるのだけれど ネット詩に於いては、宗教、性、差別、というところで この作品が一挙に担う形、になっている。 今のネット詩の在り方に一石を投じている。 その現代に於ては「当事者」という言葉があって ほぼ問題があれば「当事者」から何らかアクションをせよ、ということになっています。 それは「自己責任論」と相まった形で。 私たちはボノボじゃない。 但し、とおく、イエロー(日本人)と聖書の関係性といえば 信仰というのは深さであって アングロサクソンに言わせれば 日本人は宗教リテラシーも低いし、何も分かっちゃいないよ と思われている節があるのかなと。 その「信じる」と「分かる」は別次元なのだけれど。 そこで、作者様には色々言いたいことがあって それがふつふつと溜まってボノボの話しになったのではないかなと思います。 めちゃくちゃ有意義で、少し尊敬します!
1創作行為の幸せについてかんがえたときに、創作行為というより創作を投稿する行為ではあるんですが、読む人の中に考えを引き出せることというのはすごくすごく幸せだと思うのですが、それを踏まえて、とても幸せなコメントを頂けたと思いました。
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