風が吹かない暖かい日だ
僕になり損ねた君は憎しみでいっぱいで
素手で影に踏み込んで
人間みたいな鼠を捕まえて来ては紙の紐で
ぐるぐる巻きに括っていた
それを涸れた古井戸の底に投げ込み
哀れに手足をばたつかせる人間みたいな鼠が
かつてあった湧水の中の暗闇を
散り行き明滅し浮き沈むのを
涙を溜めた目で見詰めていた
死を連想させるものはみな焼却したのに
呪いに掛かることはないと思っていたのに
髪が美しいと思う価値観は
曇天の世界で既に忘れ去られていたけれど
それでも僕は君の髪に触れて
恋人になりたい
あれはどうして人間みたいに見えるのだろう
鼠と呼ばれることが幸せなのだろうか
僕らの親がいつか僕らを鼠として産んだことを知って
安いトマトみたいに叩き売りされ
古ぼけた手鏡のような感情をもって生きる
繰り返される模倣の果てに形作られたと自我を偽り
一パック398円の国産牛こま切れ肉を買って来て
ささやかな夕餉にする
君は手を洗いながら鏡に向かって謝り続けている
愛しているから許して貰えるだろうかと
人間みたいな鼠に自分がしたことを
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 710.8
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2023-06-10
コメント日時 2023-06-11
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/23 19時09分10秒現在
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「人間みたいな鼠」は何かの比喩なのでしょうけど、ハダカデバネズミを思い浮かべました。人間と同じように毛のない(正確には少ない)ネズミです。
0こんにちは。 前作と何か繋がりのある作品のような印象を受けました。 今回も正確な意味は捉えきれないのですが、「人間みたいな鼠」とは「繰り返される模倣の果てに形作られたと自我を偽」っている自分のことを表しているように感じます。 そしてそれが現れた理由を、 「死を連想させるものはみな焼却したのに 呪いに掛かることはないと思っていたのに」 という文が何かほのめかしている、そんなふうにも思えました。 内に秘めた苦しみを吐露しているような詩です。
0感想有難うございます。 ハダカデバネズミ、実際に見た事があります。太り倒して眠っていました。
0感想有難うございます。 醜さを表現するのに、一般的にイメージの悪い動物を比喩に使ったので、 おおむね作者も同じ解釈です。 本質的に鼠であるにも関わらず、それを人間たらしめている(ように見える、と僕は言いますが)要素とは何なのか、考えたりします。 或いはどうやっても鼠にしか見えない人もあるんじゃないのか、とも。 愛玩動物としてならともかく、野生動物として、鼠に人間と同じ愛情を向けることは少ないと思うのです。 都会のそれはもはや病気を伝染する害獣という認識で広まっていさえする。 この辺りの理解は、作者と読者の心の中だけであれば良いことかもしれませんね。
0コメント有難うございます。 明記しておいた方が良さそうな所を書き出しておきます。 最後の行の「人間みたいな鼠に自分がしたことを」は意味が二通りある様子で、 たもつさんの読み方を私は認識していせんでした。こういったことはよくあるのですが。 「括って井戸へ放り込んだ」ことを謝っていると同時に、「人間みたいな"鼠"として扱った」ことを懺悔・後悔しているのですね。 「僕」が人間なのか、鼠なのかについて(こう書くと直戴過ぎてなんだか間抜けですが)、 意識が混濁しているというのも同じことを思っています。 彼は産まれた通り、地べたを這いつくばり、したたかに暮らし、大型の肉食動物に捕食されるのを待つべき鼠の仲間なのです。 でも、「君」に恋したことで、鼠以外の何かになろうとしている。 彼女としては、人間として生きるなんて最悪だ、みたいに思っていそうですね。彼女は「僕」になりたいのです。理由はここでは書かれていませんが、人殺しに対する潜在的な罪悪感に似た感情からではないだろうかと推察します。 作者の意図したところでは恋が主体の作品です。詩なんてみんな誰かの中のラブストーリーなんだろうなぁ、と書き添えて終わりにしたいと思います。
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